お客様からの電話
当社の修理工場で電池交換をされたというお客様から、オペレーターに電話が入った。
「お電話ありがとうございます。〇〇時計お客様相談室でございます。」
『そちらに電池交換に出したら、文字板にゴミがついていたんですが、そこの責任者と話がしたい。』
「お待ち下さい。」
「〇〇さん、すみません、お客様からこちらで電池交換したら文字板にゴミがついていたとクレームです。」
あぁ、クレームか。
お怒りの声を聞くのは、心が壊れそうになるが、責任者としては対応せざるを得ない。
「わかりました、代わって下さい。」
「責任者の〇〇です。」
『そこで、電池交換をしてもらったけど、受け取ったら文字板にゴミがついてた。どういう修理をしているのか詳しく聞きたい。いい加減な仕事をしているんではないですか?』
「ご連絡ありがとうございます。まず、修理内容について、こちらで修理工場へ内容確認させて頂きたいと思いますので、お時間いただけますでしょうか?改めてこちらからご連絡させて頂きたいと思います。」
『どれくらい時間かかりますか?当然やり直ししてもらいたいのですけど。』
「大至急確認させて頂きまして、ご連絡差し上げます。少々お待ちください。」
一旦、切電。
「〇〇さん、どうして時計を送って下さいと言わなかったんですか?」
「修理工場に、お客様からどのように承ったのか、確認する必要があったからです。電池交換だけなのか、修理で承ったのか…」
そうなのだ。場合によっては、こちらが謝る必要がないかもしれない…
修理工場へ確認の電話
修理工場に確認の電話を入れた。
「修理番号〇〇〇〇のお客様の修理ですが、修理依頼はどうなってますか?」
『こちらのお客様からは、電池交換の依頼となってました。』
「ありがとうございます。電池交換依頼ですね。当然、電池交換依頼となると、実施することは電池交換とパッキン交換と防水検査、洗浄、運針検査ですよね。」
『そうですね。』
「ありがとうございました。」
想像した通りだった。
オーバーホールのような修理ではなく、電池交換のご依頼だったということだ。
お客様に誤解のないようにご説明せねば。
お客様の憤りも理解できるが、ご納得いただかなければならない。
お客様への電話
お話する内容を頭の中で整理しながら、お客様の電話番号を押した。
プルルルル
『はい』
「〇〇様でいらっしゃいますか?〇〇時計お客様相談室の〇〇でございます。ご連絡遅くなりまして申し訳ございません。」
『確認できました?嘘は言ってませんが。』
「確認させて頂きました。この度は、〇〇様からは、電池交換のご依頼を受けたということになっておりました。間違いないでしょうか?」
『間違いないです。』
「まず、電池交換ご依頼の場合の説明をさせていただきます。作業の流れといたしましては、まず裏ぶたを開けまして、電池の交換を行い、運針確認をし、パッキンを新しいものに交換をし、裏ぶたを締め、洗浄を行い、防水検査をするというのが一連の作業となります。」
『修理完了表にもそうチェックが入ってました。』
「はい、したがって、電池交換では文字板を取り外す作業などはしておりません。」
『ちょっと待って。電池交換の場合、確認しないということ?』
「左様でございます。お客様からのご依頼が電池交換という場合には、電池交換したあとの運針確認と防水検査をさせて頂くということで、内部機械や文字板、その他のチェックはいたしません。修理のご依頼の場合には、すべてのチェックをさせて頂くことになりますが。」
『見ないということですか?でも現実的には、電池交換して文字板にゴミがついているから、これは電池交換のせいですよね・・・』
「裏ぶたは開けましたが、機械を取り外した訳ではありませんし、ガラス側も開けておりません。そのついているゴミ、多分ケバだと思うのですが、カレンダーから出てきたのか、あるいは針の出ている軸部分、筒車あたりから出てきた埃の塊のようなものかと思われます。」
『これは取ってもらえないということですか?』
「誠に恐れ入りますが、取ることは可能ですが、この場合、お預かりして実施するとなると、外装修理費用が必要となります。」
『取るのにお金が必要だということですか?』
「恐れ入りますが、外装修理費用がかかります。」
『このゴミを取るだけで外装修理費用がかかるの?取りすぎではないですか?ぼったくりですよ。』
「取り出すには、裏ぶたを開けて、内部機械と文字板を取り出し、ゴミを除去し、再度文字板と機械を入れ込んで、時間に狂いはないか確認と調整を行って、パッキンも通常は交換、防水検査も必要となります。一応の流れがありますので、ゴミを取るだけということではないのです。」
『ゴミがついたのは、電池交換のせいですよね』
「長年使用された時計ですと、内部にケバや埃などが発生することがあります。電池交換の作業中に、それらが何らかの拍子に移動する可能性まで否定することはできません。ただ、電池交換の作業工程には、文字板の確認や清掃は含まれておりません。」
『もう、わかりました』
「申し訳ございません、ありがとうございました。」
今回のお客様にとっては、「ゴミを取るだけ」という簡単な作業だったのだと思う。
しかし、時計の修理では、ひとつの作業をするためにも、そこに付随するさまざまな確認や工程が必要になる。
お客様からすれば簡単に思えることでも、実際にはそうではない。
その違いを分かりやすくご説明することも、お客様相談室の大切な仕事なのだと、改めて感じた一件だった。
おわりに
今回のお話は、私がお客様相談室で実際に経験した出来事をもとにしています。
時計は精密機械です。
しかし、お問い合わせの中には、「故障ではないのに故障と思われているケース」や、「少し知識があれば解決できるケース」が数多くありました。
実際の販売現場では、このような細かい質問への対応が信頼に直結します。

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