【実話】『なんで持ってる部品で修理できないんだ?』というお客様のご依頼にお答えできないメーカーならではの訳

お客様相談室実話

お客様からの電話

お客様相談室のオペレーターが、お客様からのご依頼の電話でかなり苦戦しているようだ。
いつものような明るさはなく、かなり不安な表情に見えた。

「お客様がお持ちの部品を一緒にお送りいただいてもそれを使っての修理はできかねます」

『…、…、…』

「申し訳ございません。出来かねます。」

『・・・・、・・・・・、・・・・』

「お待ちください。」

おそらく対応に困っているのだろう。
気が重いが、責任者として対応しなければならない。

ガラスが割れた

「ガラスが割れたらしいのですが、部品をもっているので、付け替えだけしてくれと仰ってまして。一応、外装修理のご案内をしたのですが、お持ちの部品は使えませんと申し上げましたところ、かなりお怒りになられまして、なぜ出来ないんだ、責任者を出せと仰っておられます。」

「ガラス割れだと、外装修理だけではダメですね。それから、部品が使えないと言っていただいたのは対応として良かったです。お持ちの部品は使えません。では、お電話を代わりますので、責任者に代わりますと言っていただいて、こちらに通話転送してください。」

「わかりました、よろしくお願いいたします。」

おそらく、部品をお持ちだということは、時計に詳しい方なのかもしれない。
クレームに発展しなければいいが…

持ってる部品を使いたい!

プルル、プルル…

まずは深呼吸をして受話器を取り、落ち着いた声で話しかけた。
「お電話代わりました。責任者の〇〇でございます。」

『今、そちらの女性の方にお願いしてたんですけど、全然わかっていただけないので困ってました。実は時計のガラスが割れたんですけど、ガラス部品を持っているんで、それに交換してほしいというお話をさせていただいていたのです。』

「大変申し訳ございません、担当が申しておりました通り、お客様がお持ちのガラス部品を使って交換するというのは出来かねます。」

『いや、なんで出来ひんねん。このガラスは合ってるはずやから問題ないやろ。交換するだけでええねんけど?』

話し方が変わった…

「お持ちの部品ですが、こちらで保管していたものではないと思いますので、使用するにあたっては責任が持てません。原則、メーカー部品は一般に流通しておりません。その部品は汎用部品かと思われますが、こちらで保証出来かねるものになりますのでお断りしております。」

『客が使ってくれと言っているんやから、使ってくれたらいいんと違うか?』

「大変申し訳ございません。どのような保存状況にあったのかわかりませんし、修理においては、特にガラス部分のところは防水や強度まで責任を持たなくてはなりませんのでお断りさせていただいております。」

『はあ?どういう理屈やねん。交換してくれたらいいだけやろ。』

「申し訳ございません。出来かねます。」

『もうええわ。部品代だけ、払ったらいいんやろ。そっちの部品を使って、交換だけしてくれ』

Q:外装トラブル(ガラス・りゅうず・バンド)
ガラス割れの場合、割れたガラスの細かい破片が文字板中央の軸穴部分やカレンダー窓枠から内部機械に入り込んでしまって歯車に破片が挟み込んでしまう可能性が高く、ガラス交換だけだと止まる可能性が高くなります。

オーバーホールが必要

「申し訳ございません。ガラスが割れたと仰っておられましたので、見てみないと分かりませんが、原則はオーバーホールが必要になります。」

『ガラス割れただけやのに、なんでオーバーホールが必要やねん。おかしいやろ。ぼったくりか。』

「内部機械には、たくさんの歯車が回っています。ちょっとしたケバが入っただけでも遅れが出るなど影響があります。外部からの力で内部に向けてガラスが割れるわけですから、カレンダーの窓や針が出ている軸の隙間から小さなガラス破片が入ってしまうのです。そうすると間違いなくトラブルが起こります。ガラスが割れた場合は、そういう内部への異物混入の可能性があるため、オーバーホールを行うこととしています。」

『ガラスが割れたら、破片が中の機械に入るということか?』

「左様でございます。費用は掛かってしまいますが、オーバーホールしなければ、ほぼ間違いなく後々のトラブルになると思われます。」

『そういうことか…。そういうことなら、とりあえず、見積り、いくらくらいかかるか教えてくれますか?』

「こちらでは、修理内容によって料金が決まっております。部品交換をしなければならない場合、その部品代金がプラスされます。お聞きした内容だと、オーバーホール費用に加え、ガラス部品代となりそうです。お預かりさせていただいて、お見積りを出させていただきます。」

『わかった。そうしたら、そちらへ送りますわ。よろしくお願いします。』

「かしこまりました。では承ります。大切なお時計ですので、到着いたしましたら、まずは到着のご連絡をさせていただきます。よろしくお願いいたします。」

無事に、お客様にご納得いただくことができて安堵した。

最初は「ガラスを交換するだけでいい」と仰っていたお客様も、なぜオーバーホールが必要なのかを説明すると、最後には「そういうことか」と納得してくださった。

お客様相談室では、ただ「できません」とお断りするだけでは、なかなかご理解いただけない。

「なぜできないのか」
「なぜ、それが必要なのか」

そこまできちんとご説明することが、お客様相談室の大切な仕事なのだと、改めて感じた一件だった。

おわりに

今回のお話は、私がお客様相談室で実際に経験した出来事をもとにしています。
時計は精密機械です。

しかし、お問い合わせの中には、「故障ではないのに故障と思われているケース」や、「少し知識があれば解決できるケース」が数多くありました。

実際の販売現場では、このような細かい質問への対応が信頼に直結します。

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