時計販売店からの電話
時計販売店から電話が入った。
メカニカルを購入して3ヶ月のお客様から、遅れるとクレームを言ってきているので、対応して欲しいとのことだった。
お客様相談室は、クレーム解決屋ではない。相談窓口なのだ。
販売店にも販売責任があるはず。
3ヶ月ならば、保証も効くので、販売店で説明いただくのだが‥
販売店もお客様に保証のことをご案内するも、それで済ますのかということらしい。
最終的には、お客様に、
『文句があるのなら、お客様相談室へ電話してくれ』
と仰ったらしく、
そのお客様からこちらへ電話を入れるらしかった。
おそらく、保証以上のことを要求されているのだろう。
お客様からの電話
そのお客様から電話が入った。
『買って3ヶ月、何にもしてないのに、1日1分も遅れる。不良品やろ。返金しろ。信用できるメーカーやから買ったのに、騙された。』
「ご不便をおかけしております。誠に恐れ入りますが、ご返金はお受けできかねます。ご購入時にご案内があったかと思いますが、不具合が生じましたら、保証が付いておりますので、そちらでのご対応となります。」
『あのな、保証もクソもないねん。初めから不良品を掴ませられたんやから、返金やろ。』
「誠に恐れ入ります。拝見させて頂いておりませんので、何が原因かもわかりかねます。また、すでにご使用頂いておりますので、お修理という形になります。」
『お前じゃ話にならん。責任者を出せ。』
「私が責任者でございます。」
『はあ?俺の知り合いの弁護士に話してもらうぞ。ええのか?』
「構いません。では、その弁護士の方から、ご連絡いただけるのでしょうか?」
ガチャンと電話を切られた。
再度、お客様から電話が入った。
『あのな、弁護士から、とりあえず商品を見てもらえと言われた。それからの話らしいわ。あんた宛に送るからな。』
「かしこまりました。お待ちしております。」
お客様から送られてきた商品
後日、商品が到着した。着払いだった。
商品の包み方についても乱雑な感じで、どんな結果であっても、一方的な話し合いになりそうな予感がした。
すぐさま、修理センターの方へ送り、原因究明をしてもらう。
修理センターより、連絡が来た。
原因は衝撃?
『遅れの原因は、ひげぜんまいの絡みでした。衝撃が加わった可能性があります。ケースを確認すると、3時側のりゅうず下に打痕がありました。ただし、この打痕が直接の原因と断定できる証拠まではありません。』
「ありがとうございます。お客様と交渉するので、とりあえずはペンディングとしてください。」
『わかりました。』
遅れる原因は、ひげぜんまいの絡みだった。
ひげぜんまいの絡みは、外部からの衝撃だと推測される。
外部からの衝撃に関しては、3時側、りゅうずの下に打痕があった。
だが決定的ではない。

難しい。
修理センターとしては、打痕があり、ひげぜんまいが寄れている以上、有償修理という判断になる。
しかし、お客様は「自分は何もしていない」と言い切っている。
こちらも、お客様が本当にぶつけた瞬間を見たわけではない。
証明できない以上、「あなたが悪い」とは言えない。
だが、返金にも応じられない。
どこに落としどころを作るか。
よし、決めた。
お客様への電話
お客様へ連絡する。
「もしもし、私、〇〇時計お客様相談室の〇〇です。先日お送りいただきました腕時計、メカニカルの遅れの原因究明が出来ましたので、そちらのご連絡です。」
『いずれにしても返金要求やけどな』
「遅れる原因は、ひげぜんまいの絡みでした。この絡みは、外部からの衝撃だと推測されました。外部、ケースの3時側、りゅうずの下に、ぶつかった跡がありまして、それが原因ではないかということになりました。」
『何?、初めからではなくて、事もあろうに、俺がぶつけたのが原因というのか?』
「いえ、結果として、外部からの衝撃が原因で、内部のひげぜんまいが寄れており、ケースを確認したところ、内部に影響するような打痕があったということです。」
『はあ?それは、俺がぶつけたということを言ってるよな。』
「結果として、内部ひげぜんまいによれが出ておりますので、その寄れを直すと遅れは解消されます。」
『返金はしないということか?』
「申し訳ございません。お修理対応でお願いします。ただ、外部からの衝撃が原因ですので、保証は効かず、有償となります。」
『ふざけるなよ。ぶつけたのは、俺が買う前かもしれんやろ。』
「では、今回、その費用をお客様相談室で負担させていただくということでどうでしょうか?」
『それも納得できへん、もともとおかしかったと言ってるやろ。』
「では、内部の機械を交換させていただくということで、ご理解いただけないでしょうか?」
『…、あー、もうそれでいいわ。そうしてくれ。』
「ありがとうございました。では、早速手配させていただきます。」
修理手配
電話を切ったあと、すぐに修理センターへ連絡し、内部機械交換の手配を依頼した。
修理費よりも高い対応になった。
会社のコストとしては痛い。
しかし、修理ではお客様の『最初から不良品だった』というプライドが収まらない。
だからこそ、中身を新品交換するというカードを切った。
しかし、それで弁護士云々ではなく、お客様もこの対応に納得された。
お客様相談室の仕事は、「正しいこと」を押し通すことではない。
どこで納得していただくか。
その落としどころを探す仕事でもある。
おわりに
今回のお話は、私がお客様相談室で実際に経験した出来事をもとにしています。
時計は精密機械です。
しかし、お問い合わせの中には、「故障ではないのに故障と思われているケース」や、「少し知識があれば解決できるケース」が数多くありました。
実際の販売現場では、このような細かい質問への対応が信頼に直結します。

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