お客様相談室には、毎日ではないが、週に4〜5本程度のクレーム(程度としては大小あるが)の電話が入る。
今日もまた、入っているようだ。
対応しているオペレーターが困って、こちらをチラチラ見ている。
そろそろ、代わってくれということだろう。
お客様からの電話
電話口から激高した声が漏れている。
『お前じゃ話にならんわ。責任者と代われ。』
「責任者と代わります。お待ち下さい。」
オペレーターから通話転送されてきた。
「お電話代わりました。こちらの責任者でございます。どのようなお困り事でしょうか。」
『お困り事もクソもあるか。また一から話さなあかんのか。』
「申し訳ございません。では、先ほどの担当の者から内容を聞きました上で、こちらからお電話させて頂くということでよろしいでしょうか?」
『そうしてくれ。通話料もバカにならんからな。』
「かしこまりました。では、今おかけ頂いているお電話番号にかけさせて頂きます。しばらくお時間くださいませ。」
プツ‥
切れた。
かなりお怒りのようだ。
電話を受けた担当者から話を聞くと、数年前に18金ピンクゴールドの腕時計を買ったが、革バンドが傷み、美錠も壊れたようなので、修理工場でバンドごと取り替えたようなのだが、戻ってきたら、美錠のところの色が、ケースの色とかなり違うので文句を言ってきたようだ。
販売店からの丸投げ案件
販売店が、文句があるなら、お客様相談室に直接電話をしてくれと言ったらしい。
すべて問題だらけだ。
販売店は販売責任を放り投げて、修理に関わってもいない相談室へ丸投げしたのだ。
お客様相談室はクレーム解決の場所ではない。
しかし、対応せねばならない状況だ。
現状、新しいバンドが取り付けられ、その美錠の色がケースの色と違っていることに怒っているということだったが、それだけではないと思う。
おそらく、18金ケースの色が変色していることに不信感を持たれているのだろう。
商品を確認すると200万以上する代物だ。
電話をする以上、お客様が納得する話をしなければならない。
どのようなお客様か全くわからない状況なので、胃液が上がってきて吐きそうだ。
しかし、あまり、お客様を待たせられない。
もう、なるようにしかならないのだ。
えーい…と思いながら、電話番号を打ち込んだ。
お客様への電話
「〇〇様でいらっしゃいますか?〇〇時計お客様相談室の〇〇でございます。遅くなって申し訳ございません。」
『あのな、まずな、バンド美錠の色がケースの色と違うのはなんでかということと、そもそもバンド美錠がなんでメッキやねん。18金と違うのかということ。それからケースの色、金は色変わらんやろ。不信感ありありやわ。ちゃんと説明してくれ。』
「かしこまりました。まず、バンド美錠がメッキの件、これはなぜかというメーカーからの発表はありません。あくまで、私の見解ということになりますが、まず、18金を使うとバンドだけで、べらぼうに価格が高くなってしまうということ、また、一番傷付きやすいところでもあるということ、また重さの懸念もあるかと思います。」
『まあ、ええわ。ほんなら、色が違うことについて説明してくれや。高い金出して買ってるねん。』
「かしこまりました。ケースの方ですが、こちらは18金ピンクゴールドになります。24金が純金ですので、18金は75%が金ということなので、純金だけでできているわけではありません。金以外の金属を含んだ合金になります。そのため、長年の使用によって、汗や皮脂、空気などの影響を受け、表面の色合いが少し変化することがあります。」
『18金て、そういう意味やったんか。知らんかったわ。他のイエローゴールドとか、ホワイトゴールドとかも合金ということか?』
「左様でございます。イエローゴールドやホワイトゴールドも、純金ではなく、色や特性を調整するために他の金属を加えた合金になります。」
『そうか、わかった。しかし、買う時はそんな話無かったし、教えてくれなあかんわな。しかし、さっき言うた様に、バンド美錠の色が違うやん』
「申し訳ございません。色に関しては、その個体の歴史であって、修理では直せないとご認識ください。ただ、美錠の方も歴史を重ねるとケースと同じように色は濃くなってまいります。」
『そうか、なんでかということがわかったわ。ここでごねても仕方ないということやな。』
「色々とご説明不足になり、大変申し訳ございませんでした。今後とも引き続きご愛顧のほどよろしくお願いいたします。」
なんとか、ご納得いただいてよかった。
特に高額品のクレームに関しては、気が気ではない。
200万円の商品だからこそ、お客様は商品そのものより、『なぜこうなったのか』を知りたかったのだと思われた一件だった。
おわりに
今回のお話は、私がお客様相談室で実際に経験した出来事をもとにしています。
時計は精密機械です。
しかし、お問い合わせの中には、「故障ではないのに故障と思われているケース」や、「少し知識があれば解決できるケース」が数多くありました。
実際の販売現場では、このような細かい質問への対応が信頼に直結します。

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