手を抜いているのではないか?
街中の電池交換ではなく、あえて、メーカーに電池交換を出された方から、お客様相談室にクレームの電話が入った。
『あのなぁ、あんたのところで電池交換をしてもらったんやけど、その電池交換に納得出来へんねん。責任者と話がしたい。代わってもらえるかな?』
『お待ち下さい』
『〇〇さん、こちらで電池交換したお客様から、責任者と話がしたいと、今電話が入っています。代わってもらってよろしいでしょうか?』
またもや、ご指名だ。電池交換で、何がご不満なのであろうか?
「お電話代わりました。責任者の〇〇と申します。」
『あのな、街中の電池交換やったら、キズが入ったり、水が入ったりするって聞いたから、わざわざ、そちらに電池交換に出したんや。普通の電池交換より倍以上金払ったわ。2週間も待たされて。戻ってきたら、裏ぶたの向きも逆になっとるし、思いっきり手を抜いてるんとちゃうか?』
「ご連絡、ありがとうございます。まずはご案内の前に、お客様の修理内容について、修理工場でどのような処置をさせて頂いたのか確認をさせて頂きたいと思いますので、お手数ですが修理番号をお教え頂きまして、少しお待ち頂けますでしょうか?確認次第、こちらから折り返しお電話させて頂きます。」
『すぐしてや。忙しいんやから。』
「かしこまりました。」
修理工場へ【確認】
修理工場の責任者に確認の電話を入れた。
「こちらお客様相談室です。電池交換でこちらからお送りしました〇〇様、修理番号が〇〇〇〇です。修理内容の確認をさせて頂きたいのですが。」
『お待ちください。‥‥こちらのお修理は、電池交換ですね。ダイバーの〇〇〇〇です。パッキン交換と防水検査、洗浄を実施しています。』
「そうですよね、一旦確認させていただきました。こちらの商品はスクリューバックですよね。全く向きが違うということで、クレームのお電話が入っているんです。おそらく、こちらからご返却する際に、締め込みに対して、向きが違ってくるというご案内が抜けていたと思うんです。説明するのはこちらの仕事なんですが…」
『そうですか。こちらでは、向きが違うことよりも防水機能が働くことに重点をおいておりますので。』
「そうですよね。分かりました。ありがとうございます。」
内容の精査
今後、お客様へのアナウンスは徹底しなければならないだろうが、まずは、〇〇様にご説明しなければならない。
ご案内するにあたり、
もともと工場で製品として出される際には、裏ぶたに向きはない。
- 裏ぶたの番号などは、製品組み立ての前に、すでに刻印してある。
- 締め込むにあたり、向きを重視して加減調節をする…ということはない。
電池交換の際も同じで、締め込む加減はしない。
製品化された時と全く同じ圧力で締め込む訳ではないので、当然向きは微妙に変わってくるということだ。
ヘタに文字を上向きに加減調節をして留めた場合、防水機能が効かなくなる可能性がある。
頭に血がのぼってしまっているお客様に、果たして、説明をして、聞いてくれるだろうか?
お客様に電話だ。
お客様へ報告の電話
「〇〇様でいらっしゃいますか?〇〇時計、お客様相談室の〇〇でございます。ご連絡が遅くなって大変申し訳ござません。」
『それで、どういうことなんかな?』
「この度は、電池交換完了後、お渡しさせていただく際、〇〇様にご案内不足でありましたこと、お詫び申し上げます。』
『倍以上の金払って、期間が長くて、裏ぶたが逆向きになっていることに対して、言い訳があるということか?』
「大変申し訳ございません、仰る通り、言い訳になってしまいますが、メーカーとして、この電池交換作業に関しましては、一連の流れがございます。」
『はあ?何言うてんの?裏ぶた開けて、電池交換して、裏ぶた締めたら終わりやんか。』
「一連の作業と申しますのは、まず、裏ぶたを開ける際にゴミが侵入しないように、ゴミ、埃を除去します。その上で、裏ぶたを開けまして、メーカー指定の正規電池を入れまして、パッキンの交換をし、裏ぶたを閉めて、時計の洗浄を行い、それから防水検査を行いまして、最後に運針テストを行いまして終了となります。決して、開けて交換して終わりということではありません。」
『ほう、そんなにちゃんと見てくれるんやったら、なんで裏ぶたの向きが違うんや?おかしいやろ!』
「こちらのことも案内不足で申し訳ございません。実は、もともと、スクリューバック裏ぶたは向きが一定ではないのです。上を向いている、下を向いているという概念はありません。」
『何言うてんの。もともと上向いてたちゅうねん。』
「はい、おそらく仰る通りだと思いますが、製品として作り上げる際には、裏ぶたには刻印が最初にしてありまして、それを締め上げていくことになるのですが、上向きになるように締め具合を調節したりしないのです。まずは防水機能重視となりますので。」
『いやいや、電池交換前が上向いてたら、締めたら上向きやろ。』
「締め具合に関しましては、全く同じにはなりません。加減して締めるということは無いのです。本当に少しの違いで、傾きは出てしまいます。」
『おかしな話やろ、同じ向きにできないちゅうのは…』
「メーカーとして、何が一番重要なのかですが、防水機能が損なわれないようにすることかと思っております。締め込みに加減を入れれば、間違いなく水、湿気侵入の可能性が出てまいります。」
『しかし、そういう説明を、やる前にするべきやろ』
お客様からのご理解
「大変申し訳ございません。ご案内が不十分でありました事、お詫び申し上げます。ただ、電池交換に関しましては、防水試験のクリア、メーカー指定の専用電池、メーカーパッキンなど、ご安心していただけるものとなっております。街中の電池交換と比較すると少々お値段かかりますが、時計を長くお使いいただく上では最良のご選択かと思っております。」
『なんかうまいこと言いよるな。了解です。わかりました。ありがとう。』
何とか、お客様にはご納得いただけた。
今回の件で問題だったのは、裏ぶたの向きではない。
「なぜそうなるのか」を事前にお伝えできていなかったことだ。
メーカーでは当たり前のことでも、お客様にとっては初めて知ることが多い。
お客様相談室には、こうした「知らなかったから起きるクレーム」が数多く寄せられる。
そして、その一つひとつにお答えするのも、私たちの大切な仕事なのである。
おわりに
今回のお話は、私がお客様相談室で実際に経験した出来事をもとにしています。
時計は精密機械です。
お問い合わせの中には、「故障ではないのに故障と思われているケース」や、「少し知識があれば解決できるケース」が数多くありました。
また、どんな時計がいいのかという問い合わせも多数ありました。
実際の販売現場では、このような細かい質問への対応が信頼に直結します。

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