【実話】何度調整しても “1分進む” 理由は、毎朝の習慣だった。

お客様相談室実話

お客様からの電話

何度も修理依頼を受けているお客様から、電話が入った。
どうやら、私指名の電話になっているようだ。

何度調整しても1分進む

メカニカルをお持ちのお客様で、精度調整をして、精度範囲の「+25秒~−15秒」に調整しているのだが、返却すると、すぐに1分くらい進むという。

今回で、何度目だろうか。
いくらなんでも、調整後すぐに1分も進むというのは、あまり考えられない。
失礼ではあるが、今回は普段の生活についても、少し踏み込んでお聞きしなければならないようだ。

「〇〇に代わりました。」

『もう、何度目や?また、1分進んでるで。どんな調整してるの?なにもせずに返却してるのと違うか?』

「そのようなことはございません。毎回、瞬間歩度を計測させていただいた上で、ムーブメントを分解させていただいて、ひげぜんまいも確認して調整をさせていただいております。」

『じゃあ、なんでいつも1分も進むの?説明して』

俺のせいにしてる?

「こんなことをお聞きするのは失礼かと思うのですが、ご使用方法についてお教えいただけないでしょうか?」

『どういうこと?』

「例えば、メカニカルの巻き上げ方について、リュウズを巻いているだとか、手で振っているとか、着けた状態で走っているとか、スポーツをしているとかなどです。」

『別にスポーツなんかしとらんよ。進む原因がこっちのせいやといいたいんですか?』

「決してそのようなことを申し上げているのではございません。全ての可能性を潰していかなければ解決いたしませんので。」

『しかし、あんたの言い方やったら、うちはちゃんと調整しているから、原因はお前やと言わんばかりですけど?』

「大変申し訳ございません。そのようなつもりはございません。今回はお話をお聞きした上で、それに合わせて調整させて頂こうと考えております。」

『どういうこと?』

6姿勢について聞く

「6姿勢というものがございます。心臓部分にあたるひげゼンマイが往復運動をしてタイミングを取っています。ただ、そこも向きによって往復運動のタイミングが変わります。そこで、〇〇様の生活習慣を知ることで、どの向きが一番出現率が高いのかを知りたかったのです。」

『よくわからんけど、向きが関係する訳やな。ほとんどがデスクワークや。』

…ということは、文字板が上を向いていることが多いということだな…
進みすぎだということは、文字板上を遅れ気味に調節するしかないか…

「左様でございますか。ちなみに巻き上げはどうなさっていらっしゃいますか?」

『手巻きはほとんどしない。毎日つけてるから。しかし、デスクワークで腕の振りが無いから、毎朝、10回くらい手で振ってるかな。』

原因究明

手で振っている?
その瞬間、ある可能性が頭をよぎった。
もしかしたら、それが原因かもしれない。

「どのくらいの強さで振っておられますか?」

『手で持って、よく巻ける様に強く振ってるな。』

「イメージですが、力を入れて、巻き上げの音が聞こえるくらいでしょうか?」

『そうやな、ギュンギュンて、音が聞こえそうな感じかな?』

「ありがとうございます。もしかしたら、その振って巻き上げていらっしゃるのが進みの原因かもしれません。」

『はあ?どういうこと?』

「ひげぜんまいが収められているテンプにおきましては、振りあたり現象というものがございます。例えば、ボールを壁にぶつけると戻ってきますが、強く当てると強く返ってきます。ひげぜんまいも同じように、往復運動が瞬間的に速くなってしまうということがあるんです。」

『手で強く振ることが原因なん?』

「一度、こちらにお送りいただく前に、時間を合わせていただいて、手で振らずに、りゅうずを巻いてご使用いただくようにお願いできないでしょうか?」

『そんなことが原因やないと思いますがね…まあ、やってみますわ。』

お客様からの連絡

数日後、お客様からお電話が入った。

『もしもし、〇〇やけど。仰る通り、振らんかったら進まんようになりましたわ。どうもお騒がせしました。』

お客様が納得したようでよかった。
メカニカルというものは、人間とよく似ている。
走ると心拍数が上がるように、メカニカルも強く振ると進んでしまう。
時計も、人間と同じで、無理をさせれば調子を崩す。
そんなことを、あらためて感じた一件だった。

おわりに

今回のお話は、私がお客様相談室で実際に経験した出来事をもとにしています。
時計は精密機械です。

お問い合わせの中には、「故障ではないのに故障と思われているケース」や、「少し知識があれば解決できるケース」が数多くありました。

また、どんな時計がいいのかという問い合わせも多数ありました。

実際の販売現場では、このような細かい質問への対応が信頼に直結します。

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